祖父と私と絵画のはなし

画家であり、祖父である佐藤徹のブログ。アートのこと中心です。

【書評】無限の網 草間彌生・著

私が草間彌生さんというアーティストのことを知ったのは10年くらい前に、通っていた地元の美大でのことでした。そのときは周囲が言う評価に私は流されてしまい、アーティストなのか変人なのか、彼女はいたく面白がられているように感じました。

だから彼女が本当はどういう人で、作品はどんなものだろうというのが積年の謎でした。もう少し時間が経ってからでないと、真の評価はできないと思っていました。

作品のことは分からないでいたけど、写真で見た草間さんのあの鋭い眼光は忘れられず、10年経った昨年、この本を購入し読んでみました。

読んでみた感想は、彼女が幼少時から抱えている家族の悩みや、精神を蝕まれてからの喘息や統合失調症という困難を乗り越えて、日本を飛び出し、世界で表現活動をしているのは本当にすごいことだし、読んでいるこっちもエネルギーが充電できる読後感でした。

最近、ルイ・ヴィトンにデザインを依頼されたように、草間さんの世界での活躍が、日本国内でも高く評価されてきています。ただ、彼女が若かりし頃、まだ女性が一人で海外へ行くなんて珍しい時代のこと、水玉のアート作品・無限の網や男根を模した造形物、またハプニングと呼ばれる裸や性的パフォーマンスで話題になったとき、海外では好ましいとらえ方でニュースとなりましたが、一方日本では下品だと週刊誌などに書かれたそうです。

この本を読み進めていると、精神病を持ち、前衛芸術家と一風変わった人として評される一方、彼女が世界平和や平等、普遍的な愛を水玉を用いて謳う表現者であることに気付きました。彼女が変人なのではなく、私も含めて世間一般のほうこそ変わっていて、彼女の真の姿に気づくのに時間がかかったんだと思います(特に日本のアートシーン)。

私は、彼女の人生を一貫している芸術への真剣さに心を大きく揺さぶられ、205ページあったこの本を一気に読んでしまいました。草間彌生さんは繊細かつ強い女性であり、そして誰よりも平和と愛を叫ぶアーティストだと思いました。